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 三人が述べている戦後システムは、改革すべき「構造」の特色をよくとらえていると思う。
 一つは、N教授の「一九四〇年体制」論である。  太平洋戦争を遂行するために、一九四〇年に作られた官僚主導システムが、戦後進駐してきた米軍によって、内務省を除いて解体されずに残り、四五〜五四年の戦後復興期における傾斜生産方式や資金統制にうまく活かされ、五五年から始まった高度成長期の業界指導体制に結実した。
先進国にキャッチーアップする過程では、官僚が米欧先進国を手本として学び、業界や地方自治体を指導することによって、効率的に成長し、七一年頃までに先進国に追い着いた。 しかし、先進国という手本を失った官僚は、もともと創造力が民間よりも優れているわけではないので、業界や地方自治体をうまく指導する能力を失った。
しかし、そのことを自覚せず、自信過剰のまま資産バブルを生み、不良債権の実態を隠し、九七年度の超緊縮予算を強行して、官僚自らの失墜につながっていく。 政治家は政局に熱中、政策は官僚まかせ二番目に私が注目しているのは、政治学者のI教授の議論だ。
I教授の言う戦後システムとは、中選挙区制の下で万年与党を続ける自民党中心に出来上がったシステムである。 そこでは「政治家は政局(政権争い)をする動物、政策は官僚の領域、選挙は政治家の個人的な出来事」という世界が広がる。
万年与党の自民党は、中選挙区制の下では複数の候補者を立てて当選させなければ多数を制することが出来なかったので、党内に複数の「派閥」が生まれて、それぞれが候補者を立てて、党としては複数の候補者を公認する。 そしてこの「派閥」間の協議で、自民党を動かしていくのだが、派閥に関心のあるのはどの派閥が総理・総裁を握るかという「政局」だけだ。

政策は官僚が原案を作り、自民党の実力者や族議員に「ご説明」して承認を取り付け、形式的に党の部会や総務会で承認を受け、各省庁の拒否権付き「事務次官会議」で承認された法案のみが閣議に上がり、政府提出法案として国会で審議される。  これはもう議員内閣制ではない。
「官僚内閣制」である。 議員が選挙で付託された国民の利益を代表する「議員=国民代表制」ではなく、各省庁が支配する業界を代表し、「社会の利益」を代表すると称する「官僚=業界代表制」である。
 議員は国会の政策立案よりも、選挙区を「耕す」ことに関心が強く、選挙区でバス旅行などのサービスに務め、後援会の拡大に最大の努力を払う。 議員が亡くなれば、二世、三世が後援会によって担がれる。
モジュラー型とインテグラル型。  三人目は、少し視点が違うのだが、日本銀行副総裁となった経済学者N教授の議論だ。
 M、K、Sの三教授の先駆的研究によって広まり、N教授やI教授も触れているように、日本にはイエやムラという共同体意識の伝統がある。 日本の企業は第二次大戦後の復興の中で、「現存生産設備の合理化・企業内人材育成」を選択した。
そして製品に関しては、自動車のような「不可分・インテグラル型(すり合わせ型)」の製品開発・生産方式を採り、「囲い込みブランド差別化」型を企業利益の源に据えた。 イエやムラの行動様式だ。
 しかし、九〇年代以降のIT革命の進展、冷戦終結後の世界各国市場のグローバルな一体化は、この日本企業の選択に不利に働いた。 世界中から安価なコストで情報が入手できるようになったため、製品の設計・製造は「インテグラル型−すり合わせ型」で「生産プロセスの最適化」を図るよりも、「モジュラー型−組み合わせ型」で「組み合わせの最適化」を図った方が競争上優位に立つ。
パソコンなどデジタル製品の多くはそうである。  日本のインテグラル型の経営は、工場の合理化・企業内人材育成に力を注ぐが、モジュラー型は世界レベルでの工場と才能の組み合わせに力を注ぐ。
前者の製品は「不可分=インテグラル型」であるが、後者の製品はさまざまの部品を集めて作る「可分=モジュラー型」である。 前者の企業利益の源泉は川上から川下までを囲い込み、ブランドとして差別化する垂直囲い込み型から生まれるが、後者は一定分野で他企業に先手を打って圧倒し、独占利益を得る"Winners catch all"型である。
 N・I・N教授に共通する指摘 以上、三者三様であるが、共通した問題指摘も少なくない。 要するにこれまでの日本的システムでは、官僚がムラとしての業界を指導し、そこの利益が「官僚内閣制」を通じて日本の政治を動かしてきた。

イエとしての企業は、系列、終身雇用などのインテグラル型で発展してきた。  しかし、冷戦終結後、国、民族、宗教の自立性が強まる中で、日本の自主的な在り方が求められるような時代になると、グローバル化と市場経済化とIT化の下で、日本の得意なインテグラル型が相対的に不利になる。
また行政を頼らない自立した企業や個人が増えてくると、経済や社会の各セクターの利害を代表していると称する官僚に政治を任せるのではなく、選挙を通じて国民を代表する政治家が政策を決定しないと、日本はうまく動かない。  N教授の指摘は、日本の企業がすべて「モジュラー型」になれということではない。
素材型産業にも加工・組み立て型産業にも、それぞれ「インテグラル型」や「モジュラー型」に適した業種がある。 サービス業を含むすべての産業は「モジュラー型」と「インテグラル型」の双方の業種を含む最適組み合わせを探すべきであって、常に一方がよいとは限らない。
政策の企画は政治家、法案化は政治家と官僚、執行は官僚 戦後システムを続けるため、形だけを変える「体制内改革」では、日本は甦らない。 「体制の改革」が求められている。
それが真の「構造改革」である。  これまでにも、いくつかの試みが行なわれてきた。
中選挙区制を廃止して小選挙区制とし、複数ではなく一人の候補者が一つの党を代表して立候補し、各党の政策について国民の審判を仰ぐことが行なわれるようになった。 小選挙区制には、まだまだ改善すべき弊害も残っているが、これで中選挙区を基盤とする自民党の万年与党体制が崩れ、政権交替が可能になったことはたしかである。
 国会の論戦から、「政府委員」と称する官僚を排除し、原則として、国民を代表する議員だけが国会で政策を論じるようになった。  各省庁には、国会議員が大臣として入るほか、複数の副大臣と政務官としても入るようになった。

 しかし、A内閣までは、これで「官僚内閣制」が崩れ、「議員内閣制」が発展することはなかった。 相変わらず、官僚が政策を企画し、政治家を踊らせていた。
 民主党の構想では、百名を超える与党の国会議員が各省庁に入り、政府と党の一体化を図ると言っている。 これで本当に政策の企画が完全に政治家の手に握られ、法案化と執行の段階で官僚が参加し専門性を発揮する形が出来るのか、国民は期待と不安のまなざしでいる。
政治家がただ権限を握っただけでは、膨大な官僚機構を動かすことは出来ない。 政治家が企画したことを、政治家と共に法案化し、執行に移す有能な官僚達が必要である。
 中央官僚の既得権益を奪う構造改革。  しかし、真の「構造改革」は、これまでの中央官僚の既得権益をかなり奪うことになる。

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